2010年11月16日

(社)北海道中小企業家同友会・南空知支部11月例会

11月15日(月)岩見沢市民会館「まなみーる」で(社)北海道中小企業家同友会・南空知支部の11月例会が行われました。会場は50名近い参加者でほぼ満員。(テーマの関係で)普段の例会より農業関係者が多かったようです。

今回のテーマは『これまでの農業、これからの農業!』、報告者は長沼町在住の駒谷伸幸氏です。駒谷氏は農業法人駒谷農場の代表理事会長であり、長沼町グリーンツーリズム運営協議会会長等たくさんの役職に就いている他、過去には、ながぬま農協組合長や食料・農業・農村政策審議会委員等、様々な場面でキーパーソンとして活躍している方です。

駒谷氏の報告は、穏やかながらとてもハッキリとした口調で進められました。「私が語るのは自分で経験してきたことだけです。」と言うように、旺盛なチャレンジ精神のもとで積み重ねられた経験とそれを基に組み立てられた思考は非常に論理的で、明解かつ自信に満ちていました。2時間があっという間に過ぎ、質問時間が足りないほど。とても有意義な時間でした。
(実はその後の懇親会にも急遽参加し、駒谷さんの行動原理をじっくり伺いました。共感することも多く、これからの行動の導として大きな力をいただきました。駒谷さん、同友会のみなさん、ありがとうございました。)

さて、私の印象に残った内容を以下に記します。仕事柄農政に関わる部分の記載が多いかもしれません。
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『これまでの農業、これからの農業!』
           報告者:農事組合法人駒谷農場 代表理事会長 駒谷伸幸氏

■人との出会いこそ人生(駒谷氏の考え方の基本)
・人ひとりの力はそれほど変わらない。人と出会い、繋がりで広がっていく。差がつく。
・発展のためには、信頼できるパートナーを探し見つけること。たった一人で良い。
 あとはその人に紹介してもらうことで広がっていく。類は友を呼ぶ。

■これまでの農業【農業政策の変遷】
[戦後の農政]・増田(昭和44年に減反政策が始まっても増田は続けられた)
       ・食糧の管理=食糧管理法(農協を中心にして、農家に農家を管理させる方法)
       ・品種改良、技術改良の推進
        (戦後すぐの収量 4俵/10a → 40年後には 8俵/10a)
       ・国民の6割が農業者 = 政治力があった
   ↓
 ○農家や農業団体は政治圧力を使い、米余りであっても米を作り続けた
 ○米価運動(生産者米価の引き上げ)により、生産者と消費者の対立を生む
   ↓
 ◇高度経済成長により生活が豊かに
 ◇他産業へ人口流失 =農業人口の減少(現在、人口の2.3%)→ 政治への圧力を失っている

[現状]・本来味方にすべき人達(消費者・国民)を味方にしていない
    ・農家に補助金を出す(税を使う)ことに国民は反対している

■農家と農業団体との関係
[販売]・販売が最も難しい
    ・農家は販売を農協にまかせてきた。このことから問題が起きている
      (農家は)消費者が何を求めているのか解らない → 自立ができない
    ・売ることはエネルギーを使う
      自ら販売 → 消費者ニーズに合うものを作る → 自立した農家が育つ
    ・販売活動とは「想い」を売ること

[有利販売をするために]
○作らない権利・・・売れないものを作らない。売れるものしか作らない(計画生産)
        ・農産物は収穫した時が最高の状態。時間の経過とともに悪くなる
          → 作ってしまったら、安くても売る方がいい → 足元を見られる
○北海道からは原料を出さない・・・加工することで売価も上がり、雇用も確保できる
○流通経路の簡略化・・・日本の農産物流通は外国に比べ複雑(平均 7段階)
          ・消費者の購入価格のうち、生産者の手取額は25%
           (道産農産物の場合は手取20%・流通コストが余計にかかることによる)
          ・生産者がパッケージまでして小売業者に卸せば、流通経路を簡略化できる
           (駒谷氏は生産業、倉庫業、卸業、パッケージまでを行い、
            生産した全ての農産物を全て自分で売っている。28年かかった。)
○有機農業・・・日本は国土・気候が良く、化学肥料がなくても米4俵/10aは収穫できる
                          (戦後すぐの農業で実証されている)

■これからの農業
○価格維持を前提とした農業政策 → 価格に連動しない直接支払い制度
 ・民主党政権下での戸別所得保障制度とは発想の根本が違う
 ・現在、価格維持(農産物を高い価格で消費者が買う=消費者が負担)で農業を支えている
  → これからは、納税者負担による農業の維持
  (自由貿易で国産農産物価格は海外産と同水準まで下げる。基本の所得は税で補填)
 ・農産物価格に関係なく、農業者にも他産業と同等水準の所得を
  (現状では米農家の時給は230円台。農業生産を続けるには1俵1万2千円は必要)
 ・EUの場合、農家所得の8割が税金
  (世界で行われている農業政策を調査し、消費者にも情報開示を。消費者を味方にする。)
 ・農業の機能(国土管理、環境対策)と個人では対応できないもの(物価、天災、自由貿易)
  に対し、税で保障する・・・諸外国はGATTに影響しない範囲で自国の農業を守ってきた

○生産者・小売業者・消費者が3者得になる方法
 ・小売りには平均30%の経費がかかる。これを削るのは難しい。
 ・小売店に卸す場面で価格を20%下げる努力をする(流通の簡略化などで対応可能)。
  その20%を小売業者と生産者で分かち合えば、お互いに連携するメリットが出てくる。
 ・スローフード運動には対立の構造がない。
  (地域の気候・風土にあったものを食べられることは消費者にとっても利点がある)

○農業団体の問題・その他
 ・今まで農政に関わる会議には、農業者の代表(=農協の代表)として全農トップが参加してきた
  しかし、農業者の代表としての発言ではなく、組織を守る発言に終始。
  最近になって組織の代表でなく、農家個人が公募や推薦で参加するようになった。今後も重要。
 ・農協にも国の会計検査を入れるべき。農協組織は「守るべき対象」より大きくなった。
 ・農協はいかに原点に戻れるかが重要。
 ・今までの農業対策は直接農家には支払われていない。
  ライスセンターの建設等では補助金が下りるも、半分は農家の手出し。
  結果として償還金や固定資産税により、農家の支払額は増加した。

○グリーンツーリズムについて
 ・長沼町では6年目を迎えた。人気が高く、受入を断ることもある。
  今年は 33校 6,000人(宿泊 25校 4,500人、他には農業体験のみ)
 ・現代の子どもの母親は既に包丁を持たない世代。家庭での食文化の伝承は難しくなった。
  子どもの頃からの食文化・食生活が身体になじんでいく。 → 食育基本法の制定(原点)
 ・農家では後継者がいない=子ども部屋が空いている・・・ここに都会の子ども達を受け入れる
  (受け入れに際し、絶対に投資はしない。今あるものを工夫して、自然に)
 ・子ども達をお客さん扱いしない。『都会の孫や子どもが田舎に遊びに来た』と考える
  自分は『北海道のお爺ちゃん、お婆ちゃん。母さん、父さん』になろう!
 ・農業体験に全くメニューはない。その時やっている作業を孫に手伝ってもらう感覚。
 ・共同炊事が原則。また食材は町内で取れたものをできるだけ出すようにしている。
 ・余裕を持って接することが大事。忙しい時には受け入れない。
  受入側は毎回のことであるが、子どもにとっては『一生に一度』のこと。『人との出会い』
 ・行政や農協、町内業者、地域も協力。受入は1日1校のみ、町内無線で全町に連絡。
  町民が子どもの姿を見た時に気軽に声かけ。町全体で受け入れている雰囲気。
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駒谷さんは既存の組織や考えにとらわれず様々な提言や行動をしてきましたが、そのことで相当の軋轢があったことはすぐに想像できます。しかしそれでも信念が揺るがなかったのは「人の気持ち」を大事に思っているから。物事の判断の根本に「儲け」「名誉」などの「欲」がないからこそ、多くの人が心引かれ集まってくるのでしょう。
(駒谷さんの経営や役職変遷を一見すると、商売に長け・出世欲も強いように思うかもしれませんが、それらは結果としてついてきたものだと私は思います。判断の基準はそこにはないと感じました。)

「信頼できるパートナーを1人でいい、見つけることだ。」「類は友を呼ぶ。」

誰が信用に足る人なのか、こちらの審美眼を試されています。最善のパートナーを見つけるためには、自分自身も磨き続けなければなりません。その努力を重ねることで結果がついてくるのですね。


この日、同友会例会のあとの懇親会を終えて家路を急ぐ途中、あまりの美しい光景に車を止めて写真を撮りました。それが左の写真。月形大橋です。前日からの雪で辺りは白一面になって光を反射しています。夜遅い時間で車の通行もなく、雪が音を吸収してシーンと静まりかえっていました。

この月形大橋は石狩川に架かる町境の橋ですが、この北側には新しい橋が建設中で、あと2年もしたら取り壊されてこの光景も見られなくなります。
この美しさに出会えたのも一期一会。
この時、未来へ続く「希望の架け橋」のような感じがして・・・何だか心が騒ぎました。

comments

相変わらず、簡潔明瞭な書き込みありがとうございます。ご指摘のうように、駒谷さんの真っ直ぐな精神に感心しました。多少でも真似をしたいものだと思いました。
また、気軽に参加してください。

  • 中田信広
  • 2010年11月18日 13:12

  •     

中田信宏様、コメントありがとうございます。
(数日留守にしていたので、返信が遅くなりました。)

同友会での内容をブログに書くことでで、少しでも多くの人と「学びを分かち合いたい」と思い続けています。報告を書くことはなかなか難しいのですが私自身の勉強にもなるので、気持ちの熱いうちに正直に書くことを心がけています。(講演内容の復習とアウトプットで大事なことを心に留めることができますし、このブログが私のデータベースとして機能しているので、いつでも必要な時に取り出すことができます。)
お褒めの言葉をいただくのは気恥ずかしいのですが、嬉しいですし励みになります。
中田さん、ありがとうございます。

間もなく同友会に参加させていただくようになって、1年になります。
「宮下さん、同友会に来てみませんか。向学心・向上心のある方にとって、とても良い勉強の場ですよ。」
と、月形町内会員のHさんにお声をかけていただいたのがきっかけでした。

その言葉通り参加する度に学ぶことも多く、刺激も受けています。報告される方だけでなく会員の方々も「社会的貢献」を目指しているので毎回お会いしてお話しするのが楽しみです。やはり「目的(何のために何をするのか)」は重要ですね。

今後とも、どうぞよろしくお願いします。

  • 宮下ゆみこ
  • 2010年11月21日 14:28

  •     

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